大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

青森地方裁判所 昭和33年(行)10号 判決

原告 山田丑太郎

被告 青森県知事

主文

原告の

1、青森市大字浦町字橋本二三番二四番二号合併の二号宅地八六坪五合四勺につき、同所四四六番一号宅地八坪八合五勺と一括して、その仮換地を一〇三坪九合七勺とする被告の仮換地指定処分の不存在確認を求める請求

2、同所四四六番一号宅地八坪八合五勺につき、同所二三番二四番一号合併の一号宅地八六坪五合四勺と一括して、その仮換地を一〇三坪九合七勺とした被告の昭和三二年八月一五日付仮換地指定処分の無効確認を求める請求

3、同所二四番所在木造二階建建物一棟延坪一六四坪八合二勺に対する被告の昭和三二年一〇月二四日付建物移転通知処分の無効確認を求める請求

は、いずれもこれを棄却する。

原告のその余の訴は、これを却下する。

訴訟費用は、原告の負担とする。

事実

原告訴訟代理人は、

一、青森市大字浦町字橋本二三番二四番二号合併の二号宅地八六坪五合四勺につき、同所四四六番一号宅地八坪八合五勺と一括して、その仮換地を一〇三坪九合七勺とする被告の仮換地指定処分は、不存在であることを確認する。

二、青森市大字浦町字橋本四四六番一号宅地八坪八合五勺につき、同所二三番二四番一号合併の一号宅地八六坪五合四勺と一括して、その仮換地を一〇三坪九合七勺とした被告の昭和三二年八月一五日付土地区画整理仮換地指定処分は、無効であることを確認する。

三、青森市大字浦町字橋本二四番所在木造二階建一棟延坪一六四坪八合二勺に対してした被告の昭和三二年一〇月四日付建築物移転通知処分は、無効であることを確認する。

四、原告が、青森市大字浦町字橋本二三番二四番二号合併の二号宅地のうち、別紙目録記載建物の純敷地部分を使用、収益する権利を有することを確認する。

五、訴訟費用は、被告の負担とする。

との判決を求め、その請求の原因として、次のとおり述べた。

一、原告は、青森市大字浦町字橋本二三番二四番二号合併の二号宅地八六坪五合四勺(以下、単に二号地という。)、同所四四六番一号宅地八坪八合五勺(右二筆の土地を、以下、単に、本件土地という。)を所有し、被告は、特別都市計画法に基き、青森市に土地区画整理事業を施行するものであるところ、

(1)、被告は、昭和二九年六月一〇日、原告に対し、右区画整理のため本件土地を従前の土地として、これに対する換地予定地として、一括して一〇八坪二合とする換地予定地指定処分をした。(換地面積が増加したのは、本件土地の東側(裏側)は従前のままであるが、西側(表側)の道路が廃道となつたため、これをも換地予定地に指定したことによる。)

(2)、ところが、右換地予定地指定処分の取消、変更がないのにかゝわらず、被告は、原告に対し、更に、昭和三二年八月一五日付をもつて、青森市大字浦町字橋本二三番二四番一号合併の一号宅地八六坪五合四勺(以下、単に、一号地という。)、同所四四六番一号宅地八坪八合五勺を従前の土地として、これに対する仮換地として、一括して、一〇三坪九合七勺とする仮換地指定処分をした。

(3)、しかし、右(2)の処分の効力は、二号地に及ぶはずもないのであるが、被告は、右(2)の処分は、二号地に対してその効力があると争うので、右(2)の仮換地指定処分は、二号地に対する関係では存在しないことの確認を求める。

二、橋本四四六番一号宅地に対しては、前記一の(1)の換地予定地指定があり、その取消変更がないのに右一の(2)の仮換地指定がされたのである。

(1)、しかし、右四四六番一号宅地に対する仮換地指定の範囲を確定することができないから、右一の(2)の仮換地指定は無効である。

(2)、仮に、そうでないとしても、右一の(2)の仮換地指定の通知書には、土地区画整理法第九八条第四項所定の指定の効力発生日の記載がないから無効である。

(3)、仮にそうでないとして、被告が現地に杭打ちした範囲が指定の一〇三坪九合七勺あると仮定したところで、原告の本件建物で仮換地指定の範囲を逸脱する部分は、一合五勺弱に過ぎないのであるが、右僅少の土地を原告に対する仮換地指定から除外しても、これを取得する隣地の伊藤にとつてなんら利益として加えるところがなく、反対に、原告は、本件建物の抵触部分を大々的に移築または取りこわす必要を生じ、かつ、また、右建物の借受人六世帯が右建物から立ち退く必要を生ずる等甚大の損害を被るのである。しかも被告にとつては、これに対し補償として、数一〇万円の出費を必要とするのである。このように原告及びその借受人に甚大の損害を及ぼし、国及び県に対し、莫大の出費をさせ、しかも、よつて生ずる利益の殆どない本件仮換地指定処分は著しく合理性を欠き、権利乱用の処分として無効といわなければならない。よつて、前記「二」の裁判を求める。

三、ところで、原告は、前記一の(1)の換地予定地内に越境することなく別紙目録記載建物を建築して、平穏に使用して来たところ、被告は、原告に対し、昭和三二年一〇月二四日付建築物その他工作物等の移転通知書をもつて、青森市大字浦町字橋本二四番所在木造二階建一棟延坪一六四坪八合二勺を昭和三三年一月二四日限り仮換地指定地内に移転するよう通知して来た。(なお、その後、昭和三三年八月四日付占有者立退移転通知書を、右建物の借受人である訴外青森県遺族連合会、矢田部貢、畠山明子、蝦名ゆき子、原島照夫に交付し、建物除却の意思を明示した。)

しかしながら、

(1)、本件建物移転通知処分は、原告の所有しない建物をその対象とするものであるから、無効である。

(2)、仮に原告所有の建物に対する処分であるとしても、前記二に記載するように、無効な仮換地指定処分を前提とするものであるから、無効である。

(3)、仮に、仮換地指定が右の理由により無効でないとしても、前記二の(2)に記載したように、効力発生日の通知がないのであるから未だその効力が生じていないのであるが、本件建物移転通知処分は、右仮換地指定を前提とするものであるから無効である。

(4)、仮に、そうでないとしても、原告所有の建物は、その前提となる本件仮換地の範囲を逸脱する部分が存しないから無効である。すなわち、被告は、最近に至り、本件土地に対する仮換地指定の範囲を現地に杭打ちしたが、それは一〇三坪一合八勺に過ぎず、被告は、故意に、指定の一〇三坪九合七勺より減歩させたのである。その結果、本件建物は、右杭打ちの範囲を僅かに一合五勺弱はみ出すことになつたが、仮換地指定の一〇三坪九合七勺を、現地に正当に杭打ちすれば、右建物は、その指定の範囲を逸脱しないことが推測されるのである。

よつて、前記「三」の裁判を求める。

四、本件建物は、前記三の(4)に記載したとおり、本件仮換地指定の範囲を逸脱しておらず、従つて、原告は、本件仮換地指定の効果として、本件建物の純敷地部分を使用、収益することができるのであるが、被告はこれを争うので、前記「四」の裁判を求める。

五、よつて、本訴に及ぶ。

とこのように述べ、

被告の主張に対し、

「1 被告の主張一の2の事実は否認する。

2 同二の2の見解には賛成できない。

3 同三の3のうち、原告が被告に対し、昭和三三年五月九日付建築物除却命令書を送達したこと及び原告が、被告に対し、同月二二日、本件建物の除却を同年同月三一日から向う五〇日間猶予してもらいたい旨願い出たことは認めるが、その余の事実は否認する。」

と述べた。

(証拠省略)

被告訴訟代理人は、「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求め、答弁として、次のように述べた。

一1  請求原因一の冒頭の事実と同(1)、(2)の事実は、認める。同(3)のうち、被告が原告主張一の(2)の処分が二号地に対して効力を有すると主張していることは認めるが、その余の事実は否認する。

2  被告は、原告主張の指定処分以前の、(一)、昭和二三年四月一九日、原告に対し、本件土地に対する換地予定地として、一〇〇坪八合を指定し、(二)、更に、原告主張の昭和二九年六月一〇日に、一〇八坪二合に変更指定し(これは、原告主張一の(1)に相当する。)、更に、(三)、昭和三二年八月一五日、一〇三坪九合七勺に変更指定し(これは、原告主張一の(2)に相当する。)たものである。その経緯は、次のとおりである。

被告が原告に対し、昭和二三年四月一九日、本件土地を従前の土地としてこれに対する一括換地予定地として、別紙図面一表示朱線で囲む位置に一〇〇坪八合を指定し、右指定の範囲を、現地に杭打ちしようとしたところ、隣地の長浜重造に対する換地予定地指定のため、原告所有の本件土地が相当とされ、その地上の本件建物が約一四坪除去しなければならないことが判明し、原告からの懇請もあつたので、一たん測量を中止し、関係者の意見を徴したうえ原告の換地予定地を少しく北方に移動し、別紙図面二表示朱線で囲む位置に前記(二)の一〇八坪二合を変更指定したのである。(もつとも、右変更指定処分は、昭和二八年六月二四日に、一〇八坪二合三勺に変更指定することの決裁をしたのであるが、昭和二九年六月一〇日、誤つて、一〇八坪二合と指定し、また、右指定通知書に「変更」の文字を脱落したのである。)ところが、原告から、右一〇八坪二合の坪数は、実際にはないから測量し直してもらいたい旨の懇請があつたので、さきに指示、杭打ちしたところに従い、再調査したところ、一〇四坪五合三勺よりなく、従つて、さきに指定した一〇八坪二合を、実地に合うように一〇四坪五合三勺と変更通知すべく準備中、南側隣地の伊藤大助から、自己の換地は、約二割八分の減歩換地であるのに原告に対して増歩換地したのは不公平であるから変更を求める旨の懇請を受けたので、調査したところ、その事実が判明したので、これを容れて、別紙図面三表示朱線で囲む位置に再変更指定したのが、前記(三)の一〇三坪九合七勺の仮換地変更指定である。そして、前記(三)の仮換地指定通知書には、従前の土地の表示として、地番二三、二四の一、合併の一、四四六の一と記載されているけれども、これは、二三、二四の二、合併の二、四四六の一の誤記であり、また、「変更」の文字を脱落したのである。しかし、右誤記と右処分が変更処分であることは、原告が、当時、既に、これを知つていたのである。このことは、(1)、従前の土地の地積欄に、それぞれ、八六坪五合四勺、八坪八合五勺と記載されていること、(2)、摘要欄には、換地関係を表示するブロツク番として73ノロと記載されていること、(3)原告が、右指定通知書を受領した後、被告に対し、除去すべき建物部分の指示を求めて来たこと、(4)、右指定処分に対し、原告から、なんらの異議申立がなかつたこと等からして極めて明らかである。

そして、行政処分になんらかの誤記があつたとしても、その行政処分を受けた者が、その誤記であることを知つている場合には、その誤記が、特に、重要なものでない限り、そのかしは治ゆされたものと解するのが相当であるから、前記(二)、(三)の各処分は、右誤記の故をもつて、不存在若しくは無効ということはできない。

二1  請求原因二(1)の主張事実は否認する。同(2)のうち、原告主張の通知書には、土地区画整理法第九八条第四項所定の指定の効力発生日の記載がないことは認める。同(3)のうち、本件建物は、前記一の(三)の指定の範囲を一合五勺弱はみ出ていること、従つて、右牴触部分は除却されなければならないことは認めるが、その余の事実は否認する。

2  本来、土地区画整理法が、指定の効力発生日を通知しなければならないとする趣旨は、指定された仮換地指定地域が未だ利用ができない状況にある場合が多いので、必要により若干、猶予期間をおくことを適当とするからであつて本件のように、既に特別都市計画法によつて換地予定地を指定し(同法では効力発生日の通知を要求していない。)、その効力が発生している場合においては、特に、効力発生日の通知がなくても、右指定が相手方に通達された時をもつて、その効力発生日と解すべきであるから、なんら違法ではない。仮に違法であるとしても、無効原因ではない。

三1  同三の冒頭の事実のうち、被告が、原告に対し、昭和三二年一〇月二四日付移転通知書をもつて、青森市大字浦町字橋本二四番所在木造二階建建物一棟延坪一六四坪八合二勺を昭和三三年一月二四日限り、仮換地指定地内に移転するよう通知し、同三三年八月四日付占有立退移転通知書をもつて、右家屋の借受人たる訴外青森県遺族連合会、矢田部貢、畠山明子、蝦名ゆき子、原島照男に対し、右建物を除却するから、右建物から立ち退くよう通知し、建物除却の意思を明示したことは認めるが、右建物が、原告主張一の(1)(被告主張一の(二))の仮換地(変更)指定地内に、これを越境することなく建築されたものであることは否認する。同三の(1)、(2)の事実は否認する。同三の(3)のうち、本件仮換地(変更)指定通知書には、その効力発生日の記載がないことは認めるが、そのために、仮換地変更指定処分の効力が未だ発生しないとの見解には賛成し難い。同三の(4)の事実のうち、原告主張のように、仮換地指定処分に基いて、現地に杭打ちをしたこと(たゞし、杭打ちした範囲が、一〇三坪一合八勺であることは除く。)その結果、本件建物が、右杭打ちした範囲外に一合三勺弱はみ出ていることは認めるが、その余の事実は、否認する。

2  本件建物移転通知書の建物の所在地欄に「浦町字橋本二四」と記載したのは、「大字浦町字橋本二三番二四番二号合併の二号」の誤記である。原告は、本件建物は本件仮換地指定の範囲を逸脱するものではないと主張するが、本件建物のうち、東南角の部分〇・一三五坪は被告主張一の(一)の換地予定地指定処分当時から除却されるべき運命にあつたのであつて、本件仮換地(変更)指定処分によつて、新らたに生じたものではない。

3  被告は、原告が本件建物移転通知に応じなかつたので、昭和三三年五月九日付建築物除却命令書を原告に送達したところ、原告は、同年五月二二日、被告に対し、同年五月三一日から向う五〇日間、本件建物の除却を猶予して欲しい旨願い出たのであつて、この事実は、原告において、本件建物移転通知が、本件建物に対するものであり、また、本件建物が仮換地(変更)指定の範囲を超えているものであることを自認していたものというべきである。右事実は、本件建物移転通知処分のかし(誤記)を治ゆするに十分である。

四、請求原因四のうち、被告が建物の敷地部分一合三勺弱を原告が使用収益できないと争つていることは認めるが、その余の事実は否認する。

とこのように述べた。

(証拠省略)

理由

一、被告が、特別都市計画法に基き青森市に土地区画整理事業を施行するものであり、原告が、右土地区画整理の区域内に、本件土地を所有しているものであることは、当事者間に争いがない。

二、そこで、先ず、被告が本件二号地につき、青森市大字浦町字橋本四四六番一号宅地と一括して指定した仮換地指定処分の不存在確認請求の当否について考察する。

被告が、原告に対し、(1)、昭和二九年六月一〇日付で、本件土地を従前の土地として、これに対する一括換地予定地として、(公文書の一部である乙第五号証の六によれば、別紙図面二表示朱線で囲む位置に)一〇八坪二合を指定し、更に(2)、昭和三二年八月一五日付で、一号地と青森市大字浦町字橋本四四六番一号宅地八坪八合五勺(以下単に、四四六番一号地という。)を従前の土地として、これに対する一括仮換地として、(公文書の一部である乙第六号証の六によれば、別紙図面三表示朱線で囲む位置に)一〇三坪九合七勺を指定したことは、当事者間に争いがない。

被告は、右各処分以前の昭和二三年四月一九日、原告に対し、本件土地を従前の土地として、これに対する一括換地予定地として、別紙図面一表示朱線で囲む位置に一〇〇坪八合を指定しているのであつて、右(1)の処分は、右当初の処分を変更し、右(2)の処分は右(1)の処分を変更したものであると主張するので、検討するに、証人望月倫一、葛西敏の各証言により真正に成立したものと認める乙第一号証、証人葛西敏の証言によりその成立を認める同第四号証の一、二、三、公文書であるから真正に成立したものと認める同第五、六号証の各一ないし六、証人望月倫一の証言によりいずれもその成立を認める同第八、九号証、右各証人の各証言、証人北沢行雄、山田清次郎の各証言(たゞし、山田の証言は、その一部)、原告本人(第一回)尋問の結果部分を綜合すると、被告は、原告に対し、昭和二三年四月に、本件土地を従前の土地として、これに対する一括換地予定地として、別紙図面一表示朱線で囲む位置に、一〇〇坪八合を指定し(以下、一次指定という。)、昭和二七年に入つてから、原告立会の下に、現地に杭打ちした結果、原告は、昭和二一年五―六月ころ、建築した本件地上の建物のうち、北側約一四坪が除却されることになつたが、原告は、昭和二八年四月ころ、右約一四坪のうち西側部分を改築しはじめたので、被告は、原告に対し、右改築の中止を命じたところ、原告から、右建物の敷地には、戦災前から建物が存在していたことを理由に、右土地部分も換地予定地に指定して欲しい旨の陳情を受け、被告は、やむなく、一次指定を変更して、右土地部分をも原告に対する換地予定地に指定するため、現地を測量することなく、図面上で変更する案をたて、その変更案件を青森市中部第二工区土地区画整理委員会に付議し、同年六月一一日付同委員会の答申に基き、同月二四日、原告に対する換地予定地を一〇八坪二合五勺に変更指定すべく決裁したところ、係官の事務の不手際から、原告に対する通知が遅れ、また、指定通知書に「変更」の文字を脱落して、前記当事者間に争いのない(1)の換地予定地指定処分をし(以下、二次指定という。)、現地に杭打ちしたものである。ところが、被告は、昭和三二年一月ころ、原告から、現地は、指定の坪数がないからあらためて欲しい旨の陳情を受け、同三二年五月二日、被告の係官が、右二次指定の範囲を現地で測量したところ、一〇四坪五合三勺しかないことが判つたので、今度は、右二次指定を、現場に合致するように変更指定すべく、中部第二工区土地区画整理審議会に付議しようとしていた矢先、本件土地の東隣地の所有者伊藤大助から、数回にわたり、同人に対する換地予定地の指定は、二割八分の減歩であるのにひとり原告に対してのみ増歩しているのは、不公平であるとして同人に対する換地予定地指定処分の変更を要請された。そこで、被告は、調査、検討を加えた結果、右の事実が判明したので、同人に対し、原告に対する二次指定の土地中別紙図面二と三とによつて生ずるくいちがいの土地を削減して、これを伊藤に対する仮換地に指定することにして、同人の了解を得たうえ、原告に対する換地予定地を同図面三表示朱線のように変更して一〇三坪九合七勺を指定する案を作成し、同年六月八日、青森県庁に赴いた原告に対し、右案を呈示して、その仮換地変更予定線からはみ出している建物部分を除却するよう前もつてすゝめ、同時に、原告から被告に対し、除却の日時を通知してもらうこととして、その除却に要する費用として、金一〇五、〇〇〇円を内示し、同年七月八日、土地区画整理審議会の右案通りの変更指定の答申に基き、原告に対する仮換地として、別紙図面三表示朱線で囲む位置に一〇三坪九合七勺を変更指定することとし、前記当事者間に争いのない(2)の仮換地指定をし(以下三次指定という。)、被告の係官が、遅くとも、同年九月上旬ころ、右図面に基いて、現地を指示、杭打ちしたものである。以上の事実が認められる。右認定に反する証人山田清次郎原告本人(第一回)の各供述部分及び証人八重樫一馬の証言と同証言によりその成立を認める甲第六号証の一、二の記載は、前記証拠と対比してにわかに採用できないし、他に右認定を左右する証拠は存しない。

右に認定した事実と、いずれも成立に争いのない甲第二、三号証、乙第二、三号証、前記乙第一号証によつて認められる次の事実―すなわち、一次指定の通知書の備考欄には、ブロツク番号を示す73の記載があり、二次、三次各指定の通知書の各備考欄には、右と同趣旨の73ノロの記載があること、三次指定通知書の従前の土地の表示中一号地の坪数として、二号地と同じ坪数が表示されてあつて、北隣地長浜重造所有地である一号地(公簿面積六八坪三合八勺)とは異なるものであること(従つて、右通知書の表示中一号地と記載したのは、二号地の誤記と認められること)及び原告本人(第一回)尋問の結果によると、原告は、二次指定は、一次指定を変更し、三次指定は、二次指定を変更する趣旨のものであることを知つていた旨供述している事実とを、つき合わせて考えると、被告の原告に対する本件土地を従前の土地とする一次指定処分は、二次指定処分により、二次指定処分は、三次指定処分により、それぞれ撤回する旨の黙示の意思表示がされたものであり、現に存在するのは三次指定処分であると解するのが相当である。

そうだとすると、昭和三二年八月一五日付仮換地指定処分は本件二号地に対して効力があること明らかであつて、本件二号地につき、四四六番一号地と一括して指定した処分としては不存在であるとする原告の主張は理由がない。

三、次に、被告が四四六番一号地につき、本件一号地と一括して指定した仮換地指定処分の無効確認請求の当否について考える。

1、原告の主張二の(1)について。

原告は、三次指定処分は、四四六番一号地に対する処分としては、その範囲を確定できないから無効であると主張するが、右主張は、要するに、いわゆる仮換地の一括指定は許されないとの主張に帰する。

しかし、同一人の所有する数筆の土地を合筆することなく、これを従前の土地として、これに対する仮換地を一括指定することの適否については、反対説があるけれども、当然に違法、無効と解さなければならない合理的理由もないので、特別の事情がない限り、原則として、当然には違法無効とならないものと解するのが相当であつて、本件全証拠によるも、本件仮換地の一括指定を違法とする特別の事情は認められないから、原告の右主張は採用できない。

2、原告の主張二の(2)について。

土地区画整理法第九八条第四項の「仮換地の指定は、その効力発生日を通知してするものとする。」旨の規定の立法趣旨とするところは、換地処分の前提である仮換地指定の効力の発生を土地区画整理事業の進ちよく状況に応じ、時機に応じて、適宜その効力発生を定め、土地区画整理事業の円滑な進行を企図することにあるものと解されるところ、本件土地の区域に対しては、既に、特別都市計画法による換地予定地指定処分が行われ、その効力が発生していたのであるから、前記認定の事情の下に、特に換地予定地処分を撤回して、新たにそれに代わる仮換地を指定した本件の如き場合には、その指定の効力発生日の通知がなくとも、指定通知書の交付のときにその効力を生ずるものと解するのが相当である。原告の主張二の(2)もまた採用できない。

3、原告の主張二の(3)について。

仮に、原告の主張するように、本件仮換地指定処分によつて、原告の本件建物が一合五勺弱除却されなければならず、その補償として、国または県が相当の出費を要することになり、それを仮換地に指定されるべき伊藤大助にとつても、なんら利益にならないことが認められるとしても、本件仮換地指定処分が、被告行政庁の権限乱用行為であることを肯認する証拠は存しないから、原告の右主張も採用できない。

4、以上説明したとおりであつて、被告が四四六番一号地につき、本件一号地と一括して指定した本件仮換地指定処分の無効確認を求める原告の請求は理由がない。

四、そこで、次に、建物移転通知処分の無効確認請求の当否について考察する。

被告が、原告に対し、昭和三二年一〇月二四日付で、青森市大字浦町字橋本二四番所在木造二階建建物一棟延坪一六四坪八合二勺を昭和三三年一月二四日限り仮換地内に移転すべき旨の建物移転通知処分をしたことは、当事者間に争いがない。

1、原告の主張三の(1)について。

原告は、本件建物移転通知処分は、原告の所有しない建物をその対象とするものであつて、原告に不能を強いる無効な処分であると主張する。

成立に争いのない甲第一号証、証人山田清次郎の証言、原告本人(第一回)尋問の結果及び本件口頭弁論の全趣旨を総合すると、原告は、本件二号地上に存する別紙目録記載の建物(たゞし、同目録記載の建坪は昭和二四年当時のものであつて、その後、昭和二五年八月ころ、増築して延坪一六四坪八合二勺となつたものである。)を所有し、これ以外に、原告所有の建物が存しないこと、原告は、本件建物移転通知が、右建物に対するものであることを熟知していたものであることが認められるのである(右認定に反する証拠は存しない。)から、本件建物移転通知書の建物所在地番の表示として二四番と記載されているのは、本件二号地の誤記であり、本件建物移転通知処分は、原告所有の建物に対する処分であることが明らかである。原告の右主張は採用の限りでない。

2、原告の主張三の(2)について。

原告は、本件建物移転通知処分は、無効な仮換地指定処分を前提とするから、当然無効であると主張する。しかし、本件建物は、二号地に存するものであること前記のとおりであつて、原告は、二号地に対する仮換地指定処分の無効原因を主張しないばかりでなく、本件仮換地指定処分には、無効原因となるかしの存しないこと前段二の1ないし3に示したとおりであるから、右主張も採用できない。

3、原告の主張三の(3)について。

本件仮換地指定処分は、効力発生日の通知がないから未だその効力を生じていないとの主張は、その理由のないこと前段二の2で説示したとおりであつて、右主張を前提とする原告の主張三の(3)もまた採用できない。

4、原告の主張三の(4)について。

原告は、本件仮換地指定は、被告の指示する現地で、指定の坪数がなく、指定の範囲を正当に指示すれば、本件建物は、指定の範囲から逸脱する部分は存しないから、本件建物移転通知処分は無効であると主張する。

よつて、検討するに、証人八重樫一馬の証言によりその成立を認める甲第六号証の一、二と同証人の証言中、本件仮換地は、指定の坪数がないとする部分は、前記乙第四号証の一、二、三と証人葛西敏の証言に照らし、にわかに採用できないし、鑑定人当麻武男の鑑定(第一、二回)の結果は、検証の際に被告側の指示した地点を基準にしたものであり、右指示点は、本件仮換地の範囲を特定する図面である乙第四号証の二表示の地点と同一でないことが明らかであるから、にわかに採用できないし、他に、原告の主張するように、本件建物が本件仮換地外にはみ出していないとの主張を認めるに足りる証拠は存しない。

5、以上説明したとおりであるから、本件建物移転通知処分の無効確認を求める原告の請求は理由がない。

五、そこで最後に、本件建物の敷地部分の使用権確認請求の適否について、検討する。

原告は、被告行政庁を相手に、原告が本件建物の敷地部分を使用、収益する権利を有することの確認を求めるものであるところ、行政庁の違法な処分の取消または変更を求めるいわゆる抗告訴訟は、行政事件訴訟特例法第二条、第三条により、行政庁を被告として訴を提起し得るが、抗告訴訟でない権利関係の確認を求める訴は、一般に権利の主体となり得べきものを被告として提起すべきであると解すべきであるから、権利の確認を求める本件の右訴においては、行政庁である被告知事は、当事者適格を欠き、原告の右訴は、不適法として却下を免れない。

六、むすび。

よつて、原告の被告に対する本訴請求中、本件建物の純敷地部分の使用権確認を求める部分は、不適法として却下し、その余の各請求は、いずれも理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担につき、民事訴訟法第八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 野村喜芳 福田健次 野沢明)

目録

青森市大字浦町字橋本二三番二四番二号合併の二号

家屋番号同大字第二九〇番

一、木造木羽ぶき二階建工場    一棟

建坪 三二坪 二階     二五坪五合

一、木造木羽ぶき二階建工場    一棟

建坪 一八坪 二階       一八坪

一、木造木羽ぶき二階建居宅    一棟

建坪 二三坪二合五勺 二階   一四坪

以上。

図面一〈省略〉

本書では

朱線の箇所は太線

朱点線の箇所は太点線で表示した

(以下同じ)

図面二〈省略〉

図面三〈省略〉

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例